人は経験したことをどんどん忘れていき、 都合よく書き換えてしまうこともある。 しかし文字にして書き留めておけば 時間がたっても思い出すことができ、 その時のことを後から読む人に伝えることもできる。
私の父が亡くなった後、父の生涯を 一冊の本にまとめてくれた人がいた。 わずかな部数の自費出版本ではあるが、 かつての父の姿が綴られたその本は 私にとっては子供や孫に残したい貴重な財産だ。 私はこの方に、文字として残すことがいかに大切かを教えてもらった。
母が亡くなったときは、兄弟四人で本にした。 母を亡くした哀しみはなかなか癒えなかったが、 文字にしていく中で心を落ち着けることができた。 読み返してみると母がどれほどのエネルギーを 私たちに注いでくれたかがわかり、今でも涙が出る。
私の所属する国際箸学会で、 今度エッセイを募集することになった。 エッセイの募集を通じて、人と箸とのかかわりを あらためて見直すのが狙いだ。
うまいエッセイを書くのは難しいが、 文字にして残すことは 人生をより深く味わうことに通じる。 年齢・性別・国籍を問わず たくさんの人に寄稿していただけたらと思う。 国際箸学会主催 第1回エッセイ賞の募集は終了しました。 (記 2014.06)