若き女性客募集
マロニエというバーがある。 今は細々とママ一人。
お客のほとんどは10年20年通い詰めているので発言権も強い。
「いい加減やめたいが、お客がやめるなというからやっている」と言う。 また、値段がベラボーに安いのは(1人約1000円)
「値上げをするとお客に怒られる」というので昔のまんま。 やさしいママさんなので、お客にとっては古女房を共有しているみたいであるが。 若い娘がいないのはやはりさみしい。 若き女性たちよ、同年のヘナチョコばかりと遊んでないで、
やさしくてたくましい中年男がいるマロニエに来てみてはいかが。
文字の左側に地図を書き、ママさんには無断で掲げた。
若いプロの女性がいるバカ高い飲み屋に行くより、女性客を集めた方が、どんなに楽しいだろう、と考えた。
本当に女性客が数人来たようだが、二度目は来なかったそうだ。
また、ホステス募集と勘違いをした電話もあったそうだ。
一応うまくいったと思っていたら、伏兵があった。
この近くの古いバー「A」から看板修理の依頼があり、伺ったところさんざん怒られ、皮肉を言われた。
バー「A」は弊社が看板屋を始めたばかりの時に、注文をもらって有り難かったことがある。2、3回飲みにいったが、さっぱり面白くなかった。
ママさんが思い出の自慢話ばかりするのでこっちがくたびれてしまったのである。
我々はなぜ飲み屋へ根気よく行って金を使うのだろう。
会社では上下左右の人間関係の中でノルマに追われ、家では亭主の限界を知った働く亭主の有り難みを忘れた女房に、このストレスの時代亭主が女房に自慢できる話なんてありゃしない。かような関係の中で、自分の話を懸命に聞いてくれ「あなたってロマンチストねぇ」「あなたってすごいのねぇ」とひと言いってくれる人、自分を理解してくれる人を求めてさまよい歩いているのではないか。
流行ってる飲み屋はそれらの理解姿勢(?)がうまいような気がする。
客の話を聞き、頭を撫でてやるのである。しかもなるべく他の客にはわからないように。
ある時Mの客と別の所であって、俺もそう言われた、とお互い大笑いしたことがあった。
バー「A」が面白くなかったのは、それが足りなかったかも知れぬ。
看板では世話になったがしょうがねぇや。(記 1981.01)
