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とある都立病院殿

(昔の話)
やっと予約がとれたので約束の時間にいったらナント2時間待たされた。
1~2時間は当たり前らしい。
待合室は大部屋なので、自分の前に何人いるか見当つかぬ。
先生が呼べども答えぬ時は次第に大声になり、次に看護婦さんが大声で呼びながら、そこら中を走り回る。
我々患者用の椅子のデザインはユニークであるが、座り心地は最低。
文句言いたくとも当時の私は患者。ガマン、ガマン。
区役所と違い、皆、懸命に働いてくれるが、コンピュータ予約で2時間待ちとはどこか狂っているとは思わないのかな。今、直ったかな。
わが社はコンピュータはまだないが、納期を守り確実な仕事をするように努力しております。
うっかりトイレにも行けず、1時間半も座り心地の悪い椅子で待っているのは辛い。
しかも、病人だ。医者ほど陰で悪口を言われても、正面切って言われない商売は珍しい。
悪口を書く気分の良さと、あの病院の医者に嫌われることの損失を天ビンにかけたら、今は元気なのでとりあえず前者にした。
この看板を掲げて1週間ほどして電話があった。
「あの看板、ウチの病院のことだと思うんですが、
なんとか努力しますから(この辺はよく覚えていないが…)取り外してもらえませんか」。
非常に弱々しい声だっただけに、社会正義を振りかざす新聞記者の気持ちがわかったような気がした。いつでも脅かせる立場なのである。
ところが、看板屋にも特権がある。いったん掲げた看板は、なかなか素人には撤去できない。昔、ある看板屋が仕事をしたのに、客がどうしても金を払わない。撤去しても元は取れぬ。そこで皆が寝静まった頃「金 払え」の看板をつくって差し替えた。するとすぐに金を払ってくれたという。この特権は楽しい。私も金払いの悪い客があり一度本気でしてみようとしたが、ポンと払ったので悪用しないですんだ。
電話の声の主は、責任者的な立場にある医者ではなく、大病院の歯車のサラリーマンの声のようだった。次のと差し替えた後、また同じ声でお礼の電話があった。一件落着したが今度あの病院に行ったら、医者はどんな顔で迎えるのかなぁ。ちょっと気になる。
(記 1981.02)

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